東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2240号 判決
賃貸人と賃借人が通謀の上転借権を覆滅せしめる意図のもとに賃貸借契約を解除するがごとき場合は、転借人に対する権利濫用及び信義則違反のそしりを免れないこともあり得るが、かかる特別の事情なく、賃借人が賃料を延滞したときは、賃貸人は転借人にその支払をなす機会を与える義務を負うものではない。賃貸人が賃料延滞を理由として、賃貸借契約を解除するにあたつては賃借人に対し解除の前提である法定の催告をするだけで足りる。しかして本件について見るに被控訴人両名の先代桜井忠吾が故意に賃借権並びに転借権を消滅させる意図のもとに多額の賃料の延滞を放置請求しなかつたことはこれを認める証拠がなく、却つて原審における証人渡辺三郎及び原審並びに当審における証人渡辺登代の各証言、原審における被控訴本人桜井忠雄尋問(第一回及び職権)の各結果を総合すると、控訴人は訴外渡辺三郎、同登代の斡旋により安住の地を与えられながら従来土地使用の対価を殆んど支払わなかつた等渡辺一家に対し不義理を重ねていたがために転貸借関係を保全する機会を失するに至つたことを推認するに難くなく、自己の非をもつて他を責めるものといわねばならぬ。
(二宮 奥野 大沢)